吹浦忠正『捕虜の文明史』新潮選書

捕虜の文明史
捕虜の文明史
posted with amazlet on 07.05.27
吹浦 忠正
新潮社 (1990/09)
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古書祭りで買ったのをようやく読了。
どうも捕虜の定義や処遇など知識として曖昧だったのでその足しになればと買ってみたのだが、中々興味深かった。
文明史と題するだけあってヨーロッパ、中国、日本での簡単な捕虜の歴史から、近代ヨーロッパにおける捕虜に関するルールづくり。
そして第三部「厚遇と虐待と――現代の捕虜」において日露戦争から朝鮮戦争において実際に捕虜がどのように扱われていたかを考察されている。


意外というか驚いたのはジュネーブ条約の前身たるブラッセル宣言を提唱したのがロシアのアレクサンドル2世だったということ。
アレクサンドル2世がクリミア戦争敗北後のロシアの近代化に尽力した皇帝というイメージが強かったので((詳細は調べるまで忘れてたけど(苦笑)))。


しかし、1929年にジュネーブ条約を批准しなかった最大の理由が帝国軍人は捕虜にならないよう教育されているが、諸外国はそうでなく、一方的に負担になるだけだから、ってのは想像を絶する。
当然上がそんなんだから、下はロクに条約について教育されているはずもなく、太平洋戦争では知らずに捕虜を虐待していたり、逆に自分が捕虜になるときどう振る舞うべきか分からなかったりと悲惨なことに。
個々の事例やシベリア抑留についてはスペースの都合か簡単にしか触れられてないが。


以上簡単ながら個人的に気になった点など。
全体的に文章は平易で分かりやすく分量も手頃。
著者はあとがきにて「国際人道法の普及を願って」と小見出しをつけている通りの人物なのだが、旧軍を一方的に問題視しているわけでなく、全体的には冷静でバランスの取れた内容になっている。
その分ツッコミが弱いところがないではないが、捕虜や国際人道法に関する概説書としては良書ではないかと思われる。