『万暦十五年 1587年「文明」の悲劇』

万暦十五年―1587「文明」の悲劇
黄 仁宇 稲畑 耕一郎 古屋 昭弘 岡崎 由美 堀 誠
東方書店
売り上げランキング: 749273


大分前に古書で安く買ったのだが、先頃ようやく読了。
で、何かと感想を書く間がなかったのでネタがない今日まで日の目を見ることもなく(苦笑)。
ということで読み終えて結構たつので簡単に。


本書は基本史料を大量に読み込んだ力作であることは間違いないのだが、どうにも考え方というか着眼点に問題が。
「豊かで先進的だった中国が近代になって没落した原因の一端――というか大半――が明代にあるのでは?」という論調で全てがまとめられ、今の理論で当時の明朝の政府や社会文化とその発展を否定的に捉え、最後には「万暦丁亥の年鑑は、歴史における失敗の全記録であった、と。」。


まあ、中国人知識人の近代中国没落に由来する歴史的なコンプレックスというのは当時一種の流行だったわけだが、ここまでくると極端に過ぎる。
例えば、当時の訴訟が近代社会のように一定の法に依らず、個々の官僚の伝統的な倫理観、価値観で裁かれていたことを批判している。
だが、当時において近代西欧社会のような法を制定するだけの思想、世論、機運といった時代背景があるわけもなく、そんな明代社会において法が整っていないと批判しても正直無意味だろう。
一面でこの批判も本書刊行から20年近くたった日本人だからこそ言えるという側面もあるが、だとしても杜撰すぎるのは否めないような気がする。
とはいえ、論調は別に本書には多くの見るべき点があるので、その後の研究と合わせてみると明代社会の実状に迫れるのではないかと思われる。


もっと気楽に書くつもりだったが、結構重い話になったなあ。
しかし、また課題が増えたか。
ベトナム戦争関連も最近は読んでないというのに……orz